江戸の暮らしが息づく技と美

ヤナギアート

銅板仏画 柳アート 柳富治(柳澄観)



唯一無二の仏画の世界
 先祖の供養のために、お寺に仏画を納める。
 そうした習慣が日本のいたるところに今も残っているのをご存知ですか。
 銅版画は江戸時代の画家である司馬江漢が、その技法を最初に学んだといわれています。
 銅版仏画は銅版とはいいながらも、いわゆる版画ではありません。
 紙に写し取るのではなく、版として彫りあがった銅板そのものに彩色していく新しい仏画の技法です。
 版に色をつける以上、色をのせられるのは腐食により凹となった部分であり、下絵の段階で色の組み立てを綿密に構成しないと、ちゃんとした絵に仕上がりません。
 この技法を確立したのが、伝統工芸士の柳富治さんです。
 銅の持つ金属の光沢と文献に基づく正確な仏の色の再現により、誰も見たことのない新しい仏画の世界を開いたとして、柳さんの作品はパリのルーブル美術館をはじめ、世界各地でさまざまな賞を受賞しています。






国宝の復刻から始まった 柳富治(柳澄観)

 ▲擦り切れるまで調べた仏の彩色の資料の一冊。


 ▲日記として、30年以上続けている写仏の巻物。
 一条天皇から賜ったとされる国宝、「両界曼荼羅」で名高い奈良県高市郡高取町の子嶋寺。
 はるか平安の古より、深い緑につつまれるようにひっそりと建つ名寺である。
 その両界曼荼羅「金剛界曼荼羅」「胎蔵界曼荼羅」を、独自の技術で復刻し、高い評価を得た人物が柳富治さん、その人だ。
 子嶋寺の両界曼荼羅は、濃い紺色の綾地に金と銀を混ぜた絵具で描かれている。しかし、曼荼羅は本来、色彩が華やかなものであり、また、その色は描かれる仏ごとに厳密に決められている。柳さんは、寺に復刻版を納めた後、ぜひ、正確な色で「両界曼荼羅」を再現したいと考えた。そこで古い文献を集め、それを紐解き、一体ずつ正確な色を調べていったという。
 もともと、玩具メーカーで彩色を学んでいた柳さんにとっては、文章から色を想像し、再現するという作業は難しくなかったのかもしれない。とはいえ、二つの曼荼羅に描かれている仏の数は千数百体を超える。完成までには何年もの時間がかかった。


パリのルーブル美術館に認められても、職人であることにこだわり続ける
 「千里の道も一歩とはよくいわれるけど、僕は長いこと遍路をしていたからね。一つひとつ積み重ねていくことが嫌じゃなかったんだ」
 そう、柳さんにはもう一つの顔がある。それはお遍路さんと呼ばれる巡礼者としての顔だ。きっかけは父親の死だったという。その頃から、仏画の道に入り、四国八十八箇所を巡りを始めた。何度も巡るうちに善通寺から、「先達」という資格を授与され、初心者を安全に導くという役割を担ってきた。今では、さらにその上の「権中先達」という立場となって活動を続けている。そして、現在、柳さんが完成させた彩色版「両界曼荼羅」は、東京の木根川薬師をはじめとして、さまざまな場所に奉納、展示され、我々が目にすることができる。

 ▲版の凹凸のバランスを考えながら描くには、長年の熟練が必要だ。


 ▲パリのルーブル美術館で開かれた美の解放展で大賞を受賞した時のもの。
「僕は自分を芸術家ではなくて、あくまで職人だと思ってる。だから、自分の作品に銘を入れないんだ。僕がいろんなコンテストに作品を出すのも、本来、職人というものは、名前じゃなくて、作品で勝負していると思うからなんだよね」と柳さんは笑いながらいう。
 平成16年にパリのルーブル美術館で開かれた「美の解放展」に出品し、グランプリを受賞したことがきっかけとなり、柳さんの作品はスペインはバルセロナの国際ビエンナーレ展をはじめとして、世界の数々の展覧会やコンテストに招かれるようになった。 銅版画は海外の技術だが、柳さんのは銅版そのものに彩色してしまう。そういう作品は世界に類がない。
 「銅という金属が持つギラリとした輝きと、仏画の持つ柔らかな色彩が一体になることで、これまで誰もが見たことのない仏画になると思って、作り始めたんだよね」
 柳さんがエッチングと彩色の技法を組み合わせて、銅版仏画というジャンルを切り開いたのは、すでに40代半ばを過ぎてからだった。
 もちろん、そこにたどり着くまでの道のりは楽ではなかった。
 「職業というのは、時代が変われば必要がなくなるのもあるよね。僕が彩色を学んだ玩具の世界も同じ。技術が進歩すれば、取って代わられることもある。でも、そこで培った経験や技術というのは決してムダにはならないし、ムダにしないように生きなければいけないと思うんだ」
 柳さんは、玩具業界が斜陽となり、次の道を模索せざるをえない中、当時、まだ新しい技術だったエッチングに出会う。これなら自分の彩色の技術が生かせると思ったという。


写真だけでは伝えきれない圧倒的な仏の存在感を感じる仏画
 これまで柳さんが製作した仏画は、相当な数にのぼる。その多くが50号を超える大きな作品ばかりだ。
 柳さんの作品を前にすると、誰もが口を揃えたようにいうのが、その圧倒的な「仏」の存在感についてである。光沢の絢爛と仏教の五色の華やかさの中に、柔らかな色合いで描かれる仏が、見る者を包み込むように迫ってくるのだ。写真ではとうてい伝えきれない迫力がそこにある。
 前述したとおり、柳さんの作品は、奈良県の子嶋寺や東京の木根川薬師をはじめ、葛飾の伝統産業館でも常時展示されている。もし、お近くにお住まいの方はぜひ一度訪れていただきたいと思う。今までの仏画とはまったく違う新しい表現技法であるにもかかわらず、歴史ある寺の風景にすっと馴染んでいる。まるで、最初から、そこにあったように違和感がない。
 柳さんはその点についてこう話す。
 「新しさに媚びるのも違うけど、古いものにしがみつくのも好きじゃない。時代は流れているからね」
 時代によって技術や道具が異なるように、人の感性も異なる。柳さんが描く仏画の世界は、過去でも未来でもない、まさに現代の人のための現代の仏画だから、我々の心にすっと入ってくるのかもしれない。



 ▲圧倒的な仏の存在感とあふれ出すような色彩が、なんといっても柳作品の魅力。自然とその世界観に引き込まれてしまう。

■柳 富治氏の製作工程がご覧いただけます ※音が出ます


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